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大陸移動とミミズの証言
ダーウィンが進化論を構想する中で直面した大きな壁の一つが、なぜ遠く離れた大陸に似た生物がいるのか、という問いだった。1835年、ビーグル号でガラパゴス諸島に立ち寄った際、島ごとに異なる形態のフィンチ類を観察し、環境への適応と進化の可能性を確信する。しかし、当時の常識は「神による特殊創造説」であり、似た生物が大陸ごとにいることは、神の証だとされていた。ダーウィンはそれを別の方法で説明しようと、種子を海水に浸して発芽実験をしたり、鳥の足に泥と種子がついて運ばれる可能性を検証したが、納得できる答えには辿り着けなかった。

彼の死後30年、1912年にヴェーゲナーが大陸移動説を提唱。この説は、かつて世界は「パンゲア」と呼ばれる超大陸で一つに繋がっており、その後分裂して現在の大陸配置になったというもの。この視点から見ると、似た生物が異なる大陸に分布しているその理由は明快になる。

そして、ミミズはこの説を裏付ける「生き証人」と考えることができる。なぜならミミズは、飛ぶことも泳ぐことも出来ないからで、南米とアフリカ、北米とヨーロッパにそれぞれ似た種がいるのは、大陸がかつてつながっていた証拠とすることできるだろう。ミミズの存在は、地球規模の物語に小さな命が確かに関与してきたことを示している。

ミミズの化石は残りにくいが、地層中のトンネル状の痕跡が証拠になると考えられている。このことから、5億年前のカンブリア紀にはすでに祖先が存在していたこと、3億5千万年前には森林の下で暮らしていたことが分かっている。爬虫類や昆虫が陸上に登場した頃、地下ではすでにミミズの活動が始まっていた。ミミズはさらに、幾度もの大量絶滅をも乗り越えてきた。2億5千万年前のペルム紀末、全生物種の9割が絶滅した出来事の中でも生き延び、6600万年前に恐竜が姿を消した時代にも生き残った。


ミミズ学者たちの挑戦
近年、世界中のミミズを調べる学者たちが、この小さな生き物を通じて地球史を解き明かそうとしている。アメリカの研究者サム・ジェームズは、ミミズの分布と大陸移動の関係に注目している。彼は世界各地で新種を発見し、未記載のものも含めてコレクションを作っている。時には青や緑に輝く珍しい大型種に出会い、その姿に心を奪われたこともあったそうだ。ジェームズは「ミミズの分布パターンを地質学と重ね合わせれば、大陸の歴史が見えてくる」と語っている。

カナダのジョン・レノルズは、限られた資金の中でミミズ研究を続けている。昼はトラック運送会社の管理職として働きながら、世界中で集めた標本をまとめ、学術誌の編集も行なっている。彼は「昆虫や鳥には多くの愛好家がいるのに、ミミズの研究には一般市民の支援が乏しい」と嘆きながらも、地道に標本を収集し続けている。10万点を超えるコレクションを博物館に寄贈し次世代の研究者に託している。

こうした学者たちの姿は、ミミズが単なる「庭の生き物」ではなく、地球規模の謎を解くカギでもあることを物語っている。

庭で出会う一匹のミミズが、大陸移動や恐竜絶滅といった壮大な物語とつながっていると考えると、土を掘る手がいつもより少しだけ慎重になる?気がする…かな。