遺跡を埋葬するもの、土を生かすもの
ダーウィンは著作「肥沃土の形成」で、古代建築物がいかに「土に飲み込まれるか」を、ミミズの働きから説明した。ローマ遺跡や修道院跡を歩き、石積みの隙間や基礎の下にミミズが通路を作り、その上に分を幾層にも積み上げることで、遺物が数十年〜数百年のうちに土層の下へと静かに沈んでいくという考察である。結果として、遺跡のコインや装飾品、石材は酸化や損耗から守られ、未来の発掘に耐える形で残って行く。ダーウィンはミミズを「歴史の記録者」と見なしていた。



我が家の庭でも「遺跡」ほどオーバーな話ではないけど、同じような思いは記憶にある。土を掘った時に去年や一昨年のラベルとか、誘引の針金など、いつの間にか土に飲み込まれていて、植え替えの時に顔を出したりすることがある。風とか雪とかもっと違う要素も関係していると思うので、必ずしもミミズの仕事だけではないと思うのだけど、ミミズの力、恐るべし。

本章では、ミミズの役割が「埋葬」にとどまらず、地下世界が巨大な食物網であり、ミミズがそのハブの役割があると指摘している。


土中の細菌や真菌などの菌類は有機物を分解し、ミミズはそれら微生物が分解したものを飲み込み、腸内の粘液や消化でさらに細かくしていく。線虫類は細菌を食べ、さらにミミズの食料にもなる。その過程で、ミミズの腸を経由した微生物は、数を増やすものもあれば、逆に減るものもある。ミミズが排出した糞は団粒構造を作り、土の通気・保水性を改善し、微生物たちの住処になる。ミミズが通った後のトンネルの壁は粘液と糞でコーティングされ、菌類が繁茂しやすいホットスポットとなる。

しかし、ミミズは私たち園芸家にとって必ずしも良い効果だけを、もたらすわけではないという。ミミズは上記のような有用な菌類の増殖や土中の環境を改善するだけではなく、植物にとっての病原菌や雑草種子の運び屋にもなり得るのだという。フザリウムなど一部の病原菌は条件次第でミミズが拡散する場合もあるし、ミミズが飲み込んだ雑草の種子は殻が硬いと消化されず、そのまま排出されるという。

つまり、結論は単純化できないということ。土は網であり、ミミズはいわばその結び目を太くする存在。多くの場合、ミミズの役割はメリットが多いが、作物、気候、土質によってその効果の影響はダイナミックに変化していく。

スコップを入れる度に現れるあの一匹は、何を運び、何を片付けている最中なのか、そんなことを思うと、手元が少し丁寧になるね。