目次
種と自分を信頼すること
ガーデニングは絵画や音楽など、その他の創造的な活動よりも始めやすい。
英国の王立園芸協会では、2007年から学校でガーデニングができるようにする運動を展開している。その中で協会は、主に大都市の貧困地域にある小学校で行われているガーデニング・プロジェクトの効果を調査した。
結果からは庭が心を鎮める環境をつくることに役立つなど、多くの利点が明らかとなった。野菜や花を育てることで、ガーデニング以外の学習カリキュラムを活発化させることや、意欲や行動に問題を抱える特別なサポートを必要とする生徒に対し、ポジティブな効果を与えることが分かった。日本の学校でも小学1年生から朝顔とか育てるけど、毎年継続して何かを育てたり、学校内の敷地に庭を作ることが出来たらおもしろいね。
「庭仕事の真髄」第2章 緑の自然と人間の中にある自然
ガーデニングは子どもたちの意欲を向上させる
特に著者が注目したガーデニング・プロジェクトは、ロンドンの北にあるルートン市のある学校で行われたハロウィーンに関する研究成果だった。
この学校に通う子どもたちのほとんどは高層建築エリアの庭も緑の空間もない住宅に住んでいる。この小学校の地域では学習障害の発生率が高く、多数の生徒の成績は国内の平均を大きく下回っていた。7歳児のグループでハロウィーン用のかぼちゃを育てるプロジェクトを行ったところ、その後の調査では彼らの自信と意欲が大きく向上し、自己肯定感の低い子どもたちは主体性と興味関心が高くなる傾向が見られたという。
ガーデニング・プロジェクトが直接的に学習成績を向上させるといったデータや効果が示された訳ではないけれども、意欲の低さや自己肯定感にガーデニングがポジティブな影響をもたらしたという点が重要である(つまり間接的には影響する、と言えるのかもしれない)。
意欲や自尊心の向上は「自らの力で変化することができる」という感覚を高め、その後の生き方を良い方向へと変えるかもしれない(できるかどうかは重要ではなく「やればできる」という感覚を持つことは人生でとても大事だよね)。
再犯率を低下させるガーデニング
アメリカ、ニューヨーク市にあるライカーズ刑務所は世界最大規模の矯正施設である。ここで行われているガーデニング・プロジェクトは「グリーン・ハウス・プログラム」という名前で知られている。
このプログラムには毎年400人の男女が参加しており、植物の育て方、世話の方法を学んでいる。プログラムを終えた受刑者は出所後に市内の何百とある庭や公園で働き、都市環境の緑化に貢献しているという。ライカーズ刑務所を出た後の再犯率は高く、65%以上が出所後3年以内に刑務所に戻っているが、プログラムに参加した人の再犯率は10~15%に留まっている。
犯罪学者シャッド・マルナが行った研究では、再犯者が犯罪から立ち直るためには何が役に立つのかという問題を調査している。再犯を繰り返す犯罪者は「自分は何もできない。何も変えられない」という認知を強く持っているという。一方でその後の人生を変えた人は「自分は変えられる、何かが変わる」とした考えをより多く持っており、肯定的な自己認識をしている傾向があるという。
カリフォルニア州サン・クェンティン刑務所での園芸療法の研究(インサイト・ガーデン・プログラム)では、受刑者が獲得したエコ・リテラシーのレベルが高いほど、自分自身に対する評価が高くなったという。「エコ・リテラシー」という言葉が馴染みがないので「用例.jp」で調べてみると、以下のような記述があった。
エコリテラシーとは、地球上での生命を可能にする「自然システム」を理解する能力のことを指す。生態系の組織原則を理解し、その原則を使って人間社会を持続可能にするようになることを、エコリテラレートになると言い、それがエコリテラシーの目指すものである。
用例.jp
「エコリテラレート」という舌を噛みそうな派生語みたいなのはちょっと置いておいて、自分の命や生物全体の生命、食料がどのような環境サイクルで成り立っているのかといったことを理解する力なのかなと思う。
自分や自分の家族、友人とかだけではなく、もっと環境規模で地球規模で自分の存在を考えてみよう、みたいなことだろうか。で、このエコリテラシーが高いとなぜ自分自身に対する評価が高くなるのかというと、著者は「(プログラムへの)参加者に自分の人生を理解するための異なる文脈を与え、自分を変えるための強力な治療ツールにもなるということだ。
ダリア「こころ」と寒冷地での育て方
持続可能なガーデニングの理念は、生きるための行動規範となりうるのだと、ベスは私に説明してくれた。手を土の中に入れることで、受刑者たちは「環境に逆らわず、環境とともに生きることが必要で、それはまわりの人々とともに生きるのと同じだ」と理解するのだ」と書いている。
ちなみに「ベス」というのはインサイト・ガーデン・プログラムを開設したベス・ウェイカスという人。とても難解な文章になっているのだけど、おそらく、エコリテラシーが高いことで、自分の人生や存在をマクロな視点から俯瞰することができる、できやすいということを言っているのだと思う。
そして客観的に自己を理解できるようになることは「自分は変えられる」という認識を強く持つことができるのだろう。ガーデニングはそうした認識や理解を育むきっかけを与えてくれるのだと思う。
さらに著者はこのように書いている(というか著者もベスの主張を引用しているのだけど)。「ベスは、人々が「私から私たちへと変化する」ことができた時どのような変化が起きるか、また、植物を育て大事に世話をすることが、いかに人生に対して異なる態度をとるようになるかを繰り返し述べている。自分の人生を価値あるものと考えるようになるのだ。」
ガーデニングは未来をつくる
第3章の終盤では「グローイング・オプションズ」というガーデニングを取り入れた教育プログラムについての解説もしている。14~16歳の学校を退学になった少年少女(学習面や情緒的な難しさを抱える子どもたち)たちが、一人一人に与えられた花壇の造成を通して変化していくのだという。やはりここでも彼らの低下していた自己肯定感や自己有能感が高まりを見せ、その後の進路にも良い方向で変化が認められたようだ。
第3章は以下のような文章でしめくくられている。読んでちょっと暖かい気持ちになった。
土地を耕すことにエネルギーを注ぐと、何かの見返りがある。そこには魔法があり、つらい労働があるのだが、大地から生まれる果物や花は、本物の良いものだ。それは信じる値打ちがあるもので、手を伸ばせば得られる。種を蒔くことは未来の可能性の物語を植えることで、希望の行為だ。蒔いた種がすべて発芽するわけではないが、地面の下には自分が蒔いた種が埋まっていると思うと、そこには安心感が生まれる。