「人類にとって重要な生きもの-ミミズの話」第8章 巨大ミミズを追いかけて

アメリカ北西部にはかつて体長60センチを超え、ユリの花のような香りを放つ「パルース・ミミズ」が生息していた。20世紀の初頭までは発見例があったが、近年は見つかっておらず、絶滅の可能性が濃厚とされている。

オレゴン州でも大型の在来ミミズが知られており、ミミズ学者のドロシー・マッキー=フェンダーとその夫のケネスによる長年の調査や標本保存の努力が続けられてきた。しかしこちらも姿を消しつつあり、もう2度と会えない可能性が示唆されている。

オーストラリア南東部のギプスランド地方には、体長1メートルを超え、最大で3メートルにまで伸びる「ギプスランド・ミミズ」が生息している。地下深くにトンネルを張り巡らし、低音の響く音を出すことで存在を知らせるこのミミズは、地元では伝説的な存在。1980年代には「巨大ミミズ博物館」まで建てられ、観光の目玉になった。しかし生体を長期間飼育することは難しく、展示は限られている。

巨大ミミズの研究は人間の好奇心をかき立てるが、その調査そのものが個体を傷つけるリスクを伴う。脆い皮膚、限られた生息地、ゆっくりとした繁殖、いずれも生存を脅かす要因である。「知りたい」欲求と「そっとしておくべきだ」という慎重さの間で揺れ動きながら、丁寧な研究手法が求められる。

巨大ミミズは我々の足元の深くにひっそりと生きる「もう一つの世界」の象徴的存在。地表ではほとんど目にすることはないが、もし出会えたならそれは奇跡に近い瞬間となる。人間の好奇心と自然保全のバランス、どんな事でもそうだが、自然との向き合い方の普遍的な問いに思いを馳せる。

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