「人類にとって重要な生きもの-ミミズの話」第6章 今、地中にある危機

外来ミミズが森と畑に起こす変化

第6章では外来ミミズが生態系にもたらす影響が大きなテーマ。とりわけ北米の森林では、ナイトクローラー(ルンブリカス・テレストリス)のようなヨーロッパ由来のミミズが広がり、落ち葉の層を急速に分解してしまうため、林床植物の多様性や森林の更新が脅かされているらしい。

この背景には、最終氷期が関係している。およそ1万年前、五大湖周辺からカナダ北部にかけての地域は氷に覆われ、在来のミミズはほとんど絶滅してしまっていた。そのような状態が長く続いた後、アメリカ開拓時代以降、人間がヨーロッパから持ち込んだ園芸用の土、道路工事資材、釣り餌などを通じ外来ミミズも一緒に入り込んだ。自力では年に数メールほどしか広がらないミミズが、ヒトの物流で数千キロを数十年〜数百年で横断したことになる。

この本でたびたび登場するミミズ研究者のサム・ジェームズは、世界中のミミズを調査してきた。彼は北米の森林で起きているような外来種による土壌構造の変化が植物や菌類、さらには森林全体に及ぶことを強調している。特に北米の広葉樹林では、落ち葉の層が失われることで実生が育たず、在来の樹種が更新できない現象が確認されているという。

ミミズが落ち葉層を早く分解してしまうと腐植の構造や厚みが変わり、土壌の水分保持や微気候、菌根ネットワーク、種子の定着などが連鎖的に変化していく。別の場所では土に良い効果をもたらすとされるミミズの働きが、スピードと量が過ぎると生態系のバランスを崩してしまうというのは驚き。

さらにこの章の後半では、外来ミミズの影響が北米だけではなく、アジアの一部の農地でも問題視されている事例が紹介されている。フィリピンの棚田では、道路整備や外来植物の導入で入った外来種が田んぼの畦や田面に穴を開け、水田の水を抜いてしまう事態が生じているという。

元々、棚田は一年中水を張っていたので、ミミズが入り込む隙がなかったらしいけど、経済合理性重視の複作で稲以外の作物も育てるために水を抜いて乾田化を実施。そのためミミズが入り込んでしまったようだ。文化と経済と生態の3つの層が絡み合うとても難しい問題だ。

対策としてミミズを根こそぎ集めるのは至難なので、薬剤を散布するかと言えども、土壌汚染リスクと生態学的な影響の知見も不足しているので、安易には使えない。そこでミミズが嫌がるとされるワサビを植えているのだとか。しかし、ワサビのミミズ忌避の根拠は曖昧で、園芸的な小ネタの域を出ないようだ。

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