今年もパンジービオラの種まき開始しています。先週に種をまいて、今日見た感じでは発芽が揃ってきている。
最近、仕事の中で「ルーラルヘルス(Rural Health)」という言葉をよく目にするようになった。直訳すれば「農村の健康」。でも単に医療の話だけではなくて、地域の暮らしや環境、農業、働き方、そしてそこに暮らす人の健康を丸ごと考える視点の話。
そんな流れでいろいろ資料を探していると「日本農村医学会」という学会の存在を知った。この学会、素朴な名称でなんかやさしい感じがするのだけど、とても歴史が長くて、戦後の農村医療や公衆衛生を支えてきた流れを汲む、現場から生まれた系の学会。
そしてこの学会が発行している「日本農村医学会雑誌」という学術誌を眺めていたときに、ふと目に止まったのが今回紹介したい資料です。

目次
農薬に反対ではないけど、考えさせられる。
自分は農薬を頭ごなしに否定する意見を持っているわけではありません。これまでもこのブログで農薬の活用についてはよく取り上げてきたような気がする。物置には一通りの種類の殺虫・殺菌剤もある。近年特に厳しくなっている日本の気候で、安定して農作物を育てることの大変さも素人ながらに少しは想像がつくし、病害虫の被害を防ぐために農薬が確実に必要とされる場面があることも分かる。
実際、自分も園芸をしていて、アブラムシやハダニ、カビ病が一気に広がったときに「これはもう薬を使わないと無理だな」と感じたことは何度もある。だから「農薬=悪」と単純に言うつもりはもちろんありません。ただ、今回読んだ論文は、農薬が人にとって安全かどうか、だけではなく、生態系全体にとってどういう影響が起きているのか、という視点から書かれていて、読んでいて、これはよく考えなくてはいけないぞ、と思った。

今回読んだ論文
論文のタイトルは「農薬と生態系ー浸透移行性殺虫剤を中心にー」というもので、日本農村医学会雑誌の2025年7月に掲載されているもの。フリーアクセスで検索すれば無料で読むことができます。
内容を一言でいうと、「今使われている農薬は、人への急性毒性は下がってきているけれど、生態系への影響は本当に大丈夫なのか?」という問いを、データと過去の研究をもとに丁寧に検証した論文。
日本は農薬使用量が多い国
この論文でまず示されているのが、日本の農薬使用量の多さ。FAO(国連食糧農業機関)のデータによると、日本の農薬使用量は世界184か国中14位、1ヘクタールあたり11.2 kgという数字が示されている。上位国には熱帯地域の国が多い中で、温帯の日本がこの位置にいるというのは少し意外。
ただし、ここで重要なのは、昔よく使われていた有機リン系農薬は減っている、しかしその代わりにネオニコチノイド系などの浸透移行性殺虫剤が主流になっているという点。浸透移行性殺虫剤は、土にまいたり種にコーティングしたり、茎葉に噴霧することで、それを植物が取り込み、茎、葉、花、花粉、蜜にまで成分が行き渡る。そしてそれらを食べた虫が死ぬというもの。ホームセンターにも「モスピラン」とか「オルトラン・デラックス」青袋の方とか、普通に手に入る。
これらは一度使うと効果が長く続き、散布回数を減らせるというメリットがある。農作業の負担を減らすと言う意味でもとても合理的。でもその一方で、花の蜜にも成分が入ることや水に溶けて河川や土壌に広がること、昆虫だけでなく他の生き物にも影響するという性質を持っている。

ミツバチやトンボが減っている
この論文では国内外の研究をたくさん引用しながら、ネオニコチノイド系農薬とミツバチの減少、日本でのアキアカネ(赤トンボ)の激減、河川からの農薬検出、ペットのノミ取り薬が水環境に流れ出ている可能性、といった事例を紹介している。特に印象的なのは、人への毒性は低くても、昆虫にとっては微量で致死的になるということ。農薬なので当たり前のことだけれども、これは人間の安全基準は満たしていても(実際それも検証の余地はありそうだが)、生態系全体の安全とは別問題だよ、ということ。
この論文の終盤で「プラネタリーヘルス」という考え方が紹介されている。これは、人間の健康は地球環境の健康の上に成り立っている、という考え方で、近年、医療や公衆衛生の分野でも注目されているらしい。農薬も人が病気にならないか、だけでなく、土壌はどうなっているか、水は汚れていないか、昆虫や微生物はどのような影響を受けているか、といった視点で見ていく必要がある、というのがこの論文の一貫した主張。

趣味の園芸では
NHKの番組の話ではありません。
趣味でガーデニングをしている個人としては、正直、じゃあどうしたらいいのだろう…と考え込んでしまう。最初にも書いたように家庭菜園レベルでも害虫や病気が蔓延することは必ずあるので、必要に応じて農薬を使うことは否定できないように思う。木酢液とかニームを定期的に散布できればとシーズン始めには、心の中で目標を立てたりするのだけど、なかなか上手くいかないところもある。
だから農薬はこの先も使って行くとは思うけど、本当に必要なときだけ使う、使い方を知る、使い続ける前に一度立ち止まる、それだけでも、少しは違うのかもしれない?と思った。
この論文は科学的データをもとに現状を丁寧に整理し、これからどう農薬と向き合って行くかを考えさせるものでした。
