人類にとって重要な生き物「ミミズの話」読了-まとめ

庭の手入れをしていると土にスコップを入れた時、ミミズが飛び出してくることがある。「うわ」とか「あ、ごめん」とか思いながら、そっと横に逃してやるか、少し遠いところに放ってやる。園芸家ならきっと、こんな場面には何度もでくわしているはず。この本を読むまでは「ミミズがいる=いい土」くらいの理解しかなかったけれど、読み終わってからは、少しだけミミズへの思いが変わったような気がしている。

この本の原書タイトル『The Earth Moved』を直訳すると、「地球を動かした生き物」というような感じだろうか。ちょっと大げさなタイトルだけど、この本を読んでみると、この言葉が全然大げさではないことがわかる。ミミズは土を食べ、また新しい土を作る。その消化管の中は、小さな「ふるい」のように働いていて、通り抜ける間に病原菌を減らし、有用な菌を増やす。人間が同じことをしようとしたら、何段階もの反応槽と大量のエネルギーが必要になるそうだ。

長さ十数センチの彼らは、静かに、でも確実にこの地球を耕し、森を育て、畑を支え、私たちの庭を作っている。ミミズだけではなく、他にも無数の微生物や昆虫類などなどが複合的に働いているのだろうけど、ミミズはその中でも代表的な「見えない庭師」のような存在だ。思い返すと、我が家の庭でもミミズが多い場所は、土がふかふかしていて、植物の根がよく伸びる。

バラの周りの土が特にそう感じるのだけど、庭づくり初期の頃は本当にがちがちの土で、バラの周りの土なんて石ころだらけの大変な場所だった。それでも、毎年少しずつ石を取り除いたり、腐葉土を入れたり、枯れたひまわりとか、植物残渣を入れてきて、ミミズたちが頑張って分解したおかげか、少しずつ土が作られてきたように感じている。

バラの周りにはミミズの糞がコロコロと地面に出ていることもあるから、この本が指摘するように、あれは本当の天然の良質肥料を常時与えているようなものなのかもしれない。分解という言葉は「壊すこと」と思われがちだけれど、著者はそれを「再生のはじまり」と呼んでいる。

本の中盤では、ミミズが環境汚染を「記録する生き物」として描かれている。DDTやPCBなど、過去に使われた化学物質を体内にため込み、その土地がどんな歴史を持っているかを教えてくれるのだという。最近ではネオニコチノイド系の農薬も一部問題になっていて、ミミズの数が減っている場所もあるそうだ。食糧生産の農業レベルではなくても、個人の庭でも花や菜園を守るために殺虫剤などの農薬を使うが、土の下の生物たちを無駄に苦しめたくはないと思う。

本の最後にはダーウィンの晩年の話が出てくる。彼は自宅の庭で、老眼鏡をかけてミミズを観察しながら過ごしていたという。そして「自分もいつかこの土に還るのだ」と静かに受け入れていた。それは恐れではなく、むしろ安心に近い感情だったのかもしれない。死を恐れるのではなく、自然の循環の中に帰ることを「安心」として感じていたのではないか。もしかしたら、庭の手入れをしている私たちも、同じ気持ちを少しだけ感じているのかも。土に触れていると、不思議と心が落ち着くのは、そのせいだろうか。

私たちの身体もいつか分解され、ミミズたちの仕事によって、再び土に混ざって行く。そうして、次の春の芽吹きを支える。死とは終わりではなく、循環の中の「ひとつの通過点」。庭に立つことは、そのことをほんの少しだけ実感できるのかもしれない。

この本がアメリカで出版されたのは2004年なので、もう20年以上も昔。日本で翻訳され出版されたのが2010年。今回、出張先の古本屋でたまたま見つけて購入してきた。帯書きに「養老孟司氏推薦!」とあって、敬愛する養老先生が言うなら読んでみなくちゃと思い手に入れた。

派手な科学本ではないし、テーマもすごく地味。内容も実際に刺激的な話は特にない。「ミミズの話」なんていうタイトルだけで嫌厭する人もいるかもしれない。だけど、この地に足のついた感じが(ミミズの話だけに)、読んでいて居心地が良かった。著者の趣味も当然園芸で、ミミズ愛も本当によく伝わってくる。面白い本でした。

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