ジ・エンシェント・マリナー

3年前に我が家の庭に仲間入りをした「ジ・エンシェント・マリナー」は去年の開花シーズン中にたくさんの素晴らしい花を見せてくれた。花は数えきれないほどのやや内向きにカーブした花びらが重なり、中央部分の濃いピンクから外側の淡いピンクまでのグラデーションがとても美しい。

咲き始めから散るまでのどの段階をみてもきれいで、イングリッシュローズの中では花もちも良い方だと思う。一つの花は1週間弱は持つのではないかと思う。耐寒性も強く、寒冷地では凍害が全く出ないということはないものの、枝枯れも少ない方ではないかと思う。

ジ・エンシェント・マリナー
ジ・エンシェント・マリナー
品種名ジ・エンシェント・マリナー(The Ancient Mariner)
系統シュラブ
作出国イギリス
作出者デビッド・オースティン(David Austin)
発表年2015年
花形ロマンチック系カップ咲
開花性四季咲き
芳香甘くさわやかに香る。

ジ・エンシェント・マリナーの名前の由来

このバラの名前の由来を色々と調べてみると、ちょっと予想とは違う方向性に行ったので、驚いたと同時にやはりまだまだ世の中には知らなかった面白い世界が広がっているのだなあと改めて感じた次第。

「ジ・エンシェント・マリナー」という名前はイギリスの詩人で批評家のサミュエル・テイラー・コールリッジ Samuel Taylor Coleridge(1772-1834)が1798年に発表した叙事詩『老水夫の歌(The Rime of the Ancient Mariner)』にちなんでいる。

“Rime”はおそらく”Rhyme”=「韻」を意味していて、つまり詩や文のことなので、もう少し広い意味で「歌」という訳が当てられたのかもしれない。他にも「老水夫行(ろうすいふこう)」と訳されているものもあるようだけど、こちらは「詩」の要素少なめで、どちらかと言うと老水夫の人生や生き様にスポットを当てているような感じがする。

もう一つ、”Ancient”という単語はこれまで「古代」の意味しか知らなかったので「老いた」と訳しているのが違和感があったけど、辞書で調べてみると確かに「(人が)老いた」や「非常な高齢者;長老」というのが載っていた。最後の”Mariner”は「水夫」「船乗り」「船員」とあり、これは違和感ないけど、他に「1960〜70年代の米国の火星・水星・金星探査機」という意味もあるらしく、さすがにこちらは違う。

この物語は婚礼の宴に招かれた若者が、その場に同じく居合わせた眼光鋭い不思議な老水夫に魅せられ、その話に耳を傾けるというところから始まる。

この老水夫はこれまでの自らの人生を振り返り、過去に難破船で流された時のことを語り始めるのであった。老水夫(当時はまだ若い)が乗り組んだ船はひどい嵐に遭遇し、南極近くの氷の海を漂流していた。すると、そこに1羽のアホウドリが飛来し、9日間もの間、船員たちと共に過ごした。アホウドリは船の周りを飛び回り、毎日餌を求め、遊ぼうと水夫が呼ぶと降りてくるほどであった。しかし、老水夫はなぜかその鳥を石弓で射殺してしまうのだった。

このことをきっかけとして船には呪いがかかり、次々と災いがふりかかるようになる。流された船が赤道直下に至った時には、船員たちは皆ひどい渇きに苦しめられ、周囲を悪霊が飛び交い、死神の操る船が現れるなどし、老水夫以外の船員は全員が死んでしまう。

老水夫は自らの過ちのせいで仲間を死においやってしまったこと、アホウドリを殺してしまったことへの後悔と孤独に苦しみ続けるのだったが、ある晩に月光に美しく輝くウミヘビの群れを見て、思わず祝福するのであった。

するとそれまでの罪が許されたかのように恵みの雨が降り、老水夫は生気を取り戻すことができ、無事に帰国することが出来たのだった。しかしながら、老水夫はこの後も繰り返しよみがえる過去の罪に悩み苦しみ続け、その後の人生も懺悔のために果てしなく巡礼を続けたのだった。

このような話を語った老水夫であったが、最後に聞き手である若者との別れ際にあるメッセージを送る。それは、森羅万象を愛する人こそ祈りを捧げる人であるというもので、なぜなら自分たちを愛する神が森羅万象を作り、全てを愛しているから、ということであった。この話を聞いた若者は次の日の朝、精神的な覚醒を成し遂げた。というお話。

「老水夫の歌」のテキストはここで無料で読むことができる。

なぜ老水夫がアホウドリを殺してしまったのかが最後までよく分からないのだけど(最初はお腹を空かせて食べるためかと思ったが違うみたい)、ふと小学生の頃に友達と一緒に捕まえた昆虫や魚を明確な理由もなく、決して面白がってというわけでもなく、何も考えずに殺めてしまったことを思い出した。

それは今回に限らず時々に思い出すのだけど、その時にはいつも、なぜあんなことをしたのかという後悔の気持ちを強く感じている。もしかしたら老水夫もはっきりとした動機はなくアホウドリを殺めてしまったのかもしれず、しかし、多くの災いによって自らがしてしまった罪の意識を強く感じることになったのかもしれない。

神秘的な自然描写の中に人間の内面や心理描写も描かれていて、最後まで一気に読んでしまう物語だった。で、考えてしまうのは、なぜバラの名前にこの物語のタイトルを名付けたのかということ。

デビッド・オースティンのホームページには「『老水夫の歌』に触発されて名付けました。」としか書かれていない。はっきりとしたことはどうも分からないのだけど、老水夫が若者に送ったメッセージが示唆するものとこのバラの美しさとの間に何か関連がある気がする。

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