銀河庭園&吉谷桂子さん講演会

北海道のガーデニングシーズンの中でも、6月末から7月上旬にかけての数週間は特に魅力的な季節。春に植えたパンジーなどの草花がピークを迎え、庭全体が色とりどりの花で盛り上がりを見せてくれる。そして、バラや宿根草、前年に植えた球根たちが咲き誇り、毎年のようにその迫力には驚かされる。

我が家の庭でも、バラが過去最高と思うほどに花をつけ、大いに盛り上がってくれた。毎日雨が降るので、大量に花びらが落ちて片付けるのが非常に大変だけど、これも今の時期の恒例作業。そんな良い季節の先月末に、恵庭市にある「えこりん村」の銀河庭園に遊びに行くことができた。えこりん村には一昨年に一度ガーデンショップに行っただけで、銀河庭園は初めて。しかも今回はその銀河庭園のプロデュースを手掛けた日本を代表するガーデンデザイナー、吉谷桂子さんの講演会に参加することが出来ました。

吉谷先生が紹介するスライドはどれも美しかった…😀

これまでユーチューブとかで色々なプロの園芸家の話は聞いたことはあったものの、実際の会場で直接にお話を聞く機会は今回が初めて。道東の田舎町から前日の早朝に出発して、ソワソワしながら、期待と興奮で会場入りすることができた。

銀河庭園のゲートを抜けたところ。

えこりん村には観光バスで団体のお客さんもたくさん来ていて、ちょうど行った時間には人でごった返していた。係の人が「吉谷先生の講演会に参加する方はこちらです!」と呼びかけていたので「はい!!参加します!!!」と無駄に大きな声で興奮気味に口元を震わせながら答えたような気がするので、ちょっと怪しい人物に見えたかもしれない😭約1時間半の講演ということもあり、トイレもしっかり済ませ会場入りすると、壁一面に投影されたスライドには以下の文章が。

最新イギリス報告

人類の長い歴史で、庭を見る限り自然と人類の関係は、紀元前から20世紀まで、少なくとも自然を支配し、コントロールすることが中心だった。しかし、21世紀「地球の温暖化」が明白な今、自然は支配するものではなく、豊かな自然を維持し Sustaining Nature なるべく、自然との協調を考える時代に変わる必要がある。そんな時代に、私たちを導くヒントの新たなイギリス庭の旅をご紹介します。

Keiko Yoshiya 30th June 2024

会場に着き、はじめにこのスライドを見た時、講演を聞く前から「あぁやっぱり来てよかった…」と、すでに感動が湧き上がってきたような気持ちになった。そして周りで参加している方々を眺めて、同じ趣味を共有している人がこんなにたくさん…とすごく嬉しくなった。(そして、皆さん、めっちゃお金持ちそう…と思った)

いよいよ吉谷先生が登壇され、講演会がスタート。(吉谷先生、とっても素敵なお衣装で、ものすごくオーラが出ていた)講演のテーマは「イギリスの最新ガーデニング情報」ということだったのだけど、最初に出されたスライドの文章が講演の裏、ではなく、真のテーマとして、さまざまな内容のお話しの中で終始、重要なメッセージとして語られていた。

このメッセージにはとても共感するものがあり、自分は全くの素人週末ガーデナーで、なんともおこがましい限りだけど、去年、一昨年と庭仕事をしながら心の中でぼんやりと考えていたこと、考えをまとめたいけど、うまく言葉としてまとめられていなかったこと、もっと言うと、意識には上っていないけど、無意識下にあった考えの下地みたいなものを吉谷先生のこの最初のスライドの文章が象徴しているような気がした。

日本も記録的な暑さや異常気象で毎年すごく大変な環境になりつつあるけど、それはもちろん世界中で恐ろしいほどに進行していて、当然ガーデニングの本場イギリスでも同様とのこと。イギリスでは乾燥と激しい雨の両極端な気候と厳しい暑さにより、ガーデニング環境の変化が大きく、以前であればその土地で育っていた植物が枯れたり、少しずつ土地に合わなくなってきているらしい。

そして驚くべきことに、バラが一部の界隈では育てにくい植物の筆頭に位置付けられるほどの存在になりつつあるようで、手をかければもちろん育たないことはないのだけど、農薬をこまめに散布したり、ガーデナーがまめに手入れをしたりと、手間をかけなければ育てることができない植物であるのは誰もが知るところで、経済的な理由からバラを植えるのを辞める決断をしたガーデンも少なくないのだとか。

近年発表されている新品種のバラはだいぶ病害虫に強くなっていて、それは我が庭でも実感するほどだけど、それでもバラを綺麗に咲かせるためには、タイミングを見て最低限の農薬を使用しなくてはならない。農薬を使わない方法も色々と言われているけど、やはりここぞ、という時には使用せざるを得ない。

ただ、バラを美しく咲かせるための農薬の使用というのは、当たり前だけど、ガーデンや個人の庭レベルでも生態系に少なからず影響を与えるもので、これは本当に色々な考え方があって、農薬を完全に使用しないというのは綺麗事というのも理解しつつ、ただ個人の庭や家庭菜園レベルではどうなんだろう、、、という本当に難しい問題だと思う。

3年前に大幅に植栽デザインを変えたパルテール

特に日本のような高温多湿がメインの環境では、農薬を使用しないことには農作物は全くもって十分なものが出来ないとも言われている訳だけど、だからと言って、この先のことを考えると、いつまでもそれを続けても良いものか、、と素人レベルでも考えてしまう。

ネオニコチノイド系農薬は欧米では使用を禁止か、極めて限定された状況でのみ使用を許可されているレベルらしいけど、日本では普通にホームセンターで誰でも購入できる。モスピランとか、ベニカとか、オルトランDX(普通のオルトランはネオニコ系ではない)とか、やっぱりかなり効果があるけど、果たしてどうなんだろう。ミツバチの生態系への影響や残留農薬が発達障がいを増加させるといった結構なしっかりとしたレベルでの知見も蓄積されていて(日本政府やメーカーは否定しているけど)、それでも使うべきなのか。。。

非常に美しいコーナーでした。

話がずれたけど、こんな議論も背景にあるので、イギリスの一部のガーデンでは気候変動が厳しいことも相俟って、農薬を使用してまでバラを育てて行くことの、その意味やバラとガーデンの関係といった本質的な側面を考えるようになったのだろう。そうした動きが近年の?ナチュラリスティックガーデンの流れへと進み、バラやデルフィニウムなどを多用せずとも素晴らしいガーデンは作ることができる、という新しい流れ、潮流になりつつあるのだとか。

ちなみにデルフィニウムも支柱を立てたりと、少し手間のかかる宿根草ということで、ガーデンに取り入れるハードルが上がっている面もあるらしい。デルフィニウムは日本の暖地では夏を乗り越えられないとして、1年草扱いのようだけど、イギリスでは宿根草扱い。日本でも北海道など冷涼地や寒冷地では宿根草。ただし、温暖化の影響で生育が難しくなっているらしい。我が家でもたまたま株の老化と重なったのかもしれないけど、去年、お気に入りのデルフィが夏の暑さで初めて枯れてしまった。たまたま?偶然かもしれない、この出来事は自分の中での気候変動を思わせる身近な一つのショックな出来事だった。

ということで、ガーデンを作り、維持して行くための手間やコストを無理のない範囲で進めて行くことがサスティナブルなガーデニングということで、農薬の使用が象徴するように、これまでのガーデニングではどちらかというと自然を制御しようとすることに比重が置かれていた面があったから、そうではなく、自然が本来持っている力を活用し、自然と協調していくことも楽しむのがこれからの庭づくりなんだと思う。

植物や土と自然な形で協調する庭づくりを進めて行くと、そうした庭はわれわれに大いに癒しを与えてくれる。ガーデンのセラピー効果については、自分も一昨年に読んだ名著「庭仕事の真髄」でも繰り返し述べられており、自然と触れ合うことによる癒しの効果は、私たちの本能に組み込まれているのかもしれない。庭はその自然の癒しを提供してくれる身近で大きな存在なんだと思う。

ちなみに講演の中でも「庭仕事の真髄」が繰り返し紹介されていて非常に驚いた。吉谷先生は著者のスー・スチュアート・スミス氏とも親しいようで、スミス夫妻の自宅のガーデンや、著名なガーデンデザイナーである夫のトム・スチュアート・スミス氏が手掛けたガーデンにも何度も訪れているとのこと。吉谷先生が色々なページや内容を紹介してくれるので、改めて読み直したいなあと思った。ただ、吉谷先生もこっそり言っていたけど、読み進めるには、ちょっと骨が折れる部分もあるので、興味を引いたところ、目についたところを拾うようにして読むのもいいかもしれない。

ガーデンのセラピー効果については、誰しもが実感するところだと思うのだけど、自分もウィークデーの出勤前や帰宅後の短い時間でも庭に出て花を眺めたり、花に触れるだけで「今日も仕事…」みたいな沈んだ気持ちが上向く経験を何度もしている。何度もしているどころか、ほぼ毎朝そんな感じ😆

ここの空間もすごい美しさで、真ん中のキャットミントの間の通路を通ると、花や植物に取り囲まれ、埋もれる感じがした。取り囲まれるというと、息苦しいような、狭いような表現だけど、そんなことは全くなく、幸福な気持ちになったのだ。

先日見たユーチューブのカーメン君ガーデンチャンネルでは、登山家の野口健さんが、元気が出ない時、やる気が出ない時に庭の土の中に手を入れるというので、すごいなと思った。野口さんはあの明るい性格でいつもすごい前向きな人だと思っていただけに、とても親近感が湧いた。

吉谷先生も同様に、ちょっと元気がない時にガーデンに出ることで、エネルギーを補充することができる、というようなことを言っていたし、草木の勢いがあるところはパワーを感じるので、いつまでもそこに居たくなるんだ、とも言っていた。こう書くと、なにかスピリチュアル的な表現のようだけれども、私たちは確かにガーデンや自然とのつながりから、精神や心理的に、もっというと生物学的に何かしらの良い影響を受けるものなんだと思う。脳内の神経細胞レベルでは、化学的な変化が起きているに違いない。

そんなセラピー効果を大いに発揮するかもしれない素敵なガーデンを作り上げる際のテクニカルなポイントや、イギリスでの近年のトレンドについても、多くの写真とともに紹介されていた。庭のデザインでは植物の花や色だけではなく、葉の質感、形、それらの構成をいかにするか、こうした要素を巧みに組み合わせることで、魅力的な空間を作り出すことができるとのことで、それがなかなか難しいところなのだけど、イギリスの一流ガーデナーたちが手がけたガーデンデザインをたくさん紹介してくださった。

その中では、没入型のガーデン設計についても紹介があった。没入型のガーデンデザインでは、庭に入ると、まるで植物に取り囲まれるような感覚を味わうことができる。植物の配置や密度、歩行スペースの設計が重要で、それらが上手くマッチした時、その庭を歩くたびに新しい発見や驚きがあり、そこを訪れる人に感動を与える空間になるとのこと。

バラの咲くこの時期のメインであるローズガーデン。バラの香り、色など、圧倒的な迫力とパワーを感じた空間でした。

講演の中ではもちろん、銀河庭園についての紹介もありました。銀河庭園は残念なことに今年で閉園してしまうということで、今回初めて訪れることが出来たけど、とてもとても素晴らしいガーデンで、あらゆるところに発見があり、同じ植物を使っていても構成によって見え方がここまで変わるのか、と感動したり、ダイナミックで迫力のある空間やゆったりと心地よい安らげるような空間など、バラエティーに富んだガーデンは、どこを取っても、この場所をなくしてしまうのは非常に惜しいと思った。

午前の講演が終わり、午後からは吉谷先生の生解説で銀河庭園を歩く企画も。残念ながら早々と予約の時点で定員一杯となり、参加できず。それでも諦めきれず、一定の距離を取って、この団体に付かず離れずついて行ったのでした😆非常に怪しい。

庭園の敷地は広大で、コーナー毎のこだわりや工夫が満載なので、それこそガーデナーの手入れが半端ではないと思ったけど、本当に北海道の観光ガーデンの筆頭、庭づくりのアイディア(真似できる規模じゃないけど)満載の素晴らしい空間でした。これまで、行こうと思えば行けたのに、、行かなくてごめんなさいと思った😭

上の写真にもある、パルテール花壇は当初、ツゲ中心の植栽だったらしいのだけど枯れてしまい、3年前にホスタやアスチルベなどを中心としたデザインにリニューアルしたとのこと。吉谷先生のブログを見ると、その時の労苦が語られていて、3年目にしてようやく完成した、ということも書かれている。3年前のスケッチがそのまま現在の姿になっているのが驚き。

白雪姫とかシンデレラ、あるいは、何かのアニメのコスプレをした若者たちが写真撮影をしているところに何度も出くわし、そうした素敵な空間にもなってるのね、とガーデンの可能性に思いをはせた。
先頭のご婦人が吉谷先生。なんとも微妙な距離で庭を散策させていただきました。

ここのドラゴンガーデンも今年になり、想像していた姿に完成したとのこと。ここがまた、素晴らしい造形と植栽で美しさに感動した。ここのコーナーに植えられている黄色のアリウムがとても素敵で「アリウム・オブリクム」というらしいのだけど、調べた限りでは売っているところがない!このアリウムはこの場所で球根の分球だけではなく、種を作って増えているらしい。

パンフレットの写真を見ると、このドラゴンガーデンのコーナーは秋になるとダリアとグラス類の共演が見られそうで、すごく見に行きたい。

小さなお家が何軒も立ち並ぶコーナーでは、子どもたちが楽しそうに出入りをしていた。

ということで、他にも講演で紹介された貴重なお話をたくさんメモして帰ってきたのだけど、それについてはまたどこかの記事で振り返るか、、しないかもしれません。とにかく素晴らしいご講演と銀河庭園でした。撮ってきた写真を振り返って、改めてつくづく思うのは、ガーデンはどこも隅々まで非常に丁寧に手入れされているということ。それゆえに、今年で閉園してしまうというのが残念でならず、その前にもう一度ゆっくりと見に行きたい‼️

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